今までごめんなさい
傷つけてごめんなさい
そのかわり
素直になるから
素直に……
長い夜に終わりを告げる、東からの太陽の光が窓に差し込む。
結局私たちは夜を明かしてしまった。
泣き腫らした目は、ウサギの目と同じくらい赤くて。
こんな顔を見るのは、お母さんが亡くなって以来だということを思い出していた。
「ね、どうする?これから寝る?」
綾子が尋ねる。
「そうですわね。寝ましょう」
真砂子が相槌をうつとみんなそれに従って布団へと潜り込んだ。
私は昨日の夜のことを思い出していた。
そして心の中でジーンに謝る。
ごめんなさい―――と。
そんな風に過ごしていた女性陣の知らないところで、変化は起きていた……
全身黒の服で固めた一人の青年がドアを開ける。
「麻衣、お茶…」 といい掛けたところで、当の本人がいないことに気づいた。
…そうか、今日は麻衣の休みの日だ…
いつもならこういうことは、しっかりと把握してあった。
だが、今日に限って忘れていたのである。
―――なぜ?
そうだ。 本当はわかっている。
その理由を。
そして、そんなことで振り回されている自分に気づき、自嘲する。
仕方なく、自分で紅茶を淹れに給湯室へと向かう。
と、その時入り口のドアが開いた。
バイトをしている安原修、その人だった。
「あれ?所長紅茶ですか?私が淹れましょうか?今日谷山さんお休みですから、谷山さんほど美味しい紅茶は淹れられませんけど」
にっこりと笑顔を見せる安原。
「…いえ、結構です」
そう言うと、所長室へと再び戻った。
そして思う。
……いつからそうなってしまったのだろう?
―――と。
言葉には出して言わない。
自分の中で何かが変化していることに少しではあるが、気づいていた。
それから何事もなく仕事をこなす。
と、ドアの外から声が聞こえてきた。
どうやら、声の主はぼーさんこと滝川法生らしい。
その他数人の声が聞こえた。 どれも声の高さからして全員男らしかった。
恐らく、安原、滝川、ジョン、リンの4人だろう。
このメンツだと自分は出ない方が懸命だと思い、仕事を再開した。
暫くするとノック音がした。
コンコン。
「所長、ちょっと良いですか?」
そう尋ねてきたのは安原。
「どうぞ」 そう言うと、ドアを開け入ってくる。
安原の後ろには滝川にジョンもいた。
「何か?」
ペンを動かしながら尋ねる。
返答をしたのは滝川だった。
「ナル、唐突だがお前さん麻衣のことどう思ってるんだ?」
一つ溜息をする。
「…あなたに答える必要はないと思いますが?」
静かにそう答える。
どこか避けるかのような態度で。
滝川はじっとナルを見据えていた。
「…そうか。ならこれは俺だけの言い分だから麻衣は関係ないからな。麻衣を泣かすんじゃねーぞ」
滝川はそれだけを言うと所長室から出て行った。
ジョンとリンも滝川に続く。
そしてそこに残った安原も言う。
「滝川さんの言うとおりですよ。谷山さんを泣かせたら、後からいろんな人に言われますから、その覚悟で。
まぁ、もっとも女性陣の仕返しが一番恐そうですけどねぇ」
そういうとニッコリとナルに笑顔を向ける。
ナルは深く溜息をついた。
それを返事と受け取った安原は「それじゃ」と言って所長室を後にする。
一人残ったナルは窓を見ると、ただ一点を見つめまた一つ溜息をついた。
滝川や安原の言いたいことはわかっていた。
いや、前々から気づいていたの方が正確だろう。
元来、自分はこういうことは苦手だ。
麻衣ほど素直に感情を表には出せない。
じっと外を眺めていたが、ふと何を思ったか室内にある鏡の前まで歩く。
そして鏡の前に立った。
自分の顔を見て「くっ」と笑う。
いや、自嘲したというほうが正確かもしれない。
―――なぜ、こんなにも似ているんだろうか?
それはもうここにはいない兄を思い出していた。
自分の気持ちにはっきりできない点。
それは、兄の存在だ。
自分と瓜二つの兄。
正確に言うと双子の片割れ。
麻衣自身、兄の遺体が見つかったあの日、「私、ジーンのこと好きだったんだ…」と言っていた。
それは今も変わらないだろう。
麻衣は意外と一途だから。
だから。
恐かったのかもしれない。
自分の中にある認めたくない感情。
麻衣は今でも兄と自分を重ねてるんじゃないか――…という思い。
双子だから常に比べられてきた。
だが、二人とも正反対の性格。
「自分は自分だ」と思ってきたから、さほど気にはならなかった。
でも……
そう思い、また一つため息をついた。
いつから自分はこうなったのだろうか?
いつから……
そうしてナルは苦虫を噛んだような顔をして、再び鏡を見つめていた―――……